コスモポリテース| 世界市民 海を仰ぎ、水路を歩く。
Cosmopolitan-I walk along the canal, gazing out to sea.

「私は犬である。」そう名乗り、骨を投げつけられた。
地位を求めず、家を捨てて酒樽に住み、「犬のような生活」をした紀元前4世紀のギリシアの犬儒学派(キュニコス派)の代表的な哲学者。ディオゲネス。
人々が信じるポリス(国)は戦争により崩壊している。ディオゲネスの師アンティステネスの徳に対する思想を受け継ぎ、外見にまったく無頓着で、粗末な上着のみを着て、 頭陀袋ひとつを持って神殿やアゴラでも気にすることなく食事をしては寝た。あなたはどこの国の人かと尋ねられると「世界市民 コスモ(宇宙)ポリテース(市民)(コスモポリテース)だ」と答えたという。
彼は生涯を通じて、浮浪者であり奴隷であった。アリストテレスは「部族もなく、法もなく、竈(かま)もなき者」というホメロスの言葉を引用し、そのような人間はポリス的動物としての人間とはいえない「劣悪な人間」であると断じた。

幼い頃、ゆっくりと時間をかけて、台湾一周の旅を家族でしたことがある。父が仕事で住んでいたことがあり、第二の故郷と言っていて、その後も何度も訪れている。 大人がお酒を飲んで話している横で、ドレスを着た女の人に、折り紙の折り方を得意げに教えたり、言葉のわからない子供同士おしゃべりをしながらテレビゲームをして、おやつを食べて、ゲラゲラ笑って遊んだ。 ある日は宮殿のようなホテルに泊まり、ある日は漁村の商店の2階に泊まった。沢山の海鳥が飛んでいる港で、日本の釣竿で釣りをしていたら、沢山の子供が集まってきて、次の日には同じ仕掛けでとなりで釣りをしていた。 偶然通り過ぎた広場で行われていた、リッチなカップルの結婚式では新郎と新婦の高砂の周りに果物でできた柱があって、お餅や南国のフルーツを沢山食べた。 大久保のcallboxがある通り沿いには、台湾でお告げを受けたお坊さんによる、まさに台湾式のお寺があって、そのお線香の香りを嗅ぐと懐かしいと感じた。

どこにいても、誰といても、複数人集まると、自分は少し浮いているような気がして、この笑ってる感じって、合ってるかな?大丈夫かな?と確認したくなるせいか、1対1の関係の友人が多い。 性別が違うと、側からは恋愛関係にあるともすぐに見られて、揶揄されることもあるが、実際は違うことが多いし、当然その先の嗜好は側から見てもわからないし、一貫しているとも限らない。 もう少し見えない波のようなものを感じてやりとりしているような気がする。今朝はインド系の日本語が上手な配達員と朝の会話をして、なんか盛り上がった。ミラノにいた時は鼻が高い、彫りの深い顔の人、 そういう事がすごく上手な人が多いな。と尊敬していた。

どの国の、どんな場所の、どんな時間で、どんな体で、どんな年齢でも、ピタッと噛み合う瞬間が合って、 そのシーンと時間は永遠に心に残って、ある日の自分を勇気づけてくれる。そう感じた時に、少し浮いている自分が好きだなと思うし、 いつも新鮮に感じられる自分を誇らしく思い2cm地上から浮いていて良かったな、と思う。

芸術は私にとって、その結果であり、道具である。だけど、誰も寄せ付けない、完全に黙らせて、動けなくさせるような、道具や結果には使いたくない。 もっと、新しく沸き立つような、動き出したくなるような、そういうものでありたいと思う。だから共通点から考える。共通の言語を探り、作る。 目を見つめ合って、私達って同じ考えだよね。似ているよね。ずっと一緒だよね。と思って膝をつけ合わすと、必ず綻びがでて、無理をして、修復できなくなり、戦争が起こる。 永遠に私の家族や兄弟や友達を傷つけた恨みが消えなくて、ずっと戦うことになる。それを誰かが豊かになり、どこかで笑っている。

一緒に絵をみたり、本を読んだり、映画をみたり、実在する何かについてやりとりすることをしたいと思う。そうすると、相手のことがよくわかる。 ゲームをして、詞を創造し、記録にとり、おやつを食べる。

以前は、一人きりになる為に明け方、できるだけ人が少ない時間に歩いていた。それは瞑想のような時間で、制作しているという感覚に近い。その時間はとても好き。 かつての国境を超えて橋を渡り、行き来する。歩く。県境を超えて自転車に乗る。 だけど、今は、誰かと歩くこともできるようになった。その人がどんな嗜好かどこから来た何者かわからなくても一緒に歩くことができる。 決められた道路でなくて、空間を埋めるために話すのではなくて、よくわからないまま、時には話すことを止めて、同じ風景を見て、同じ場所を歩いているようで、 実は全然違うものを見て、違う場所にいることを楽しむ。そして、またいつかの何かの瞬間へと繋がっていく。
私は酒樽の中では暮らさないので、犬の耳をつけて手で靴を履き、四つ足で歩いてみた。

海の香りを辿って、遠くの同じ瞬間を刻んでいく。

利部志穂 2025.11.20

コスモポリタンの語源は、ギリシャ語の(コスモス、「世界」「宇宙」)と(ポリテース、「市民」)を組み合わせた(コスモポリテース)。